ル・サンク自家製天然酵母パン【Le☆Cinq】

ル・サンク自家製天然酵母パン

〒729-3711
広島県庄原市総領町五箇289(Map

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朝日新聞:鉄道去り山里でパン工房

1999年10月30日(土)【,

1999年10月30日付の朝日新聞「Uターン Iターン」記事に【鉄道去り山里でパン工房 地元で評判、遠方には宅急便】の見出しでル・サンクのことが紹介されました。

朝日新聞 1999年10月30日

 国鉄職員の長谷川一成さん(48)が仕事に見切りをつけたのは、国鉄が「分割民営化」に走り出した1987年春のことだ。

 親子二代の国鉄マン。管理局から本社勤務となり、職員局厚生課の事務職だった。「上役にはゴマをすり、部下には成張る」。国鉄改革の時期に上司たちのそんな「世渡り」を目の当たりにし、がまんできなくなって縁を切ったという。

 だが、転職のあてはなく、手に技術もない。都内のパン屋で一から修業を始めた。独り立ちのめどがついた去年四月、「人や物があふれ、幸せの基準がカネの町」東京を離れた。

 妻孝子さん(45)、一人娘志織さん(8)の一家三人で住まいを移したのが、中国山地のふもとで、広島県北東部の総領町五箇だった。もともと一成さんの実家が広島県にあった関係もあり、引っ越し先を県内にしばり、二年をかけて空き家探しをした。転居できたのは、志織さんの入学式二日前だった。

 土地、山も合めて六百万円で買った空き家は、本造平屋で161㎡あったが、築後百年を超えていた。屋根の修繕や井戸掘りなどに思いのほか出費がかさみ、パン屋の開業資金は底をついた。その一方で、都会のアパート暮らしで悩まされた、トラックの重く低い音や排ガスからは解放された。

 家族の生活を支えるパン工房は今年一月、借金して何とか開業までこぎつけた。自宅の納屋をつぶして、新たに43㎡のパン工房を建て、耐火れんが製石窯を中に据えた。店の名前は「ル・サンク」。フランス語で数字の「五」を意味し、住まいのある同町五筒から「五」の字を取った。

 一成さんは、国内産小麦を自家製の天然酵母で発酵させ、自慢の石窯で一日五十個のパンを週四日焼きあげる。ほかに卵自でふくらますパウンドケーキもつくる。デザインの勉強をした孝子さんがチラシを作ってPRする。
 遠く離れた福山方面からも店頭買いに来てくれる客もいるが、宅配便で送るほうが多い。地元へは週二日、夕市などへ出している。「おいしい」と評判だ。都会の知人からは「住んでいるのは、どんなところなの」とよく尋ねられる。一成さんは「裏は山、イノシシ、キツネ、イタチがいる。えさになるネズミやヘビがいるからフクロウもいる。まるで"自然動物園"みたい」と説明している。「日当たりがよくて、家の前に田んぼがあって、六月にはホタルが飛ぶの」と孝子さん。ただ、冬の冷え込みは厳しく、夜になると零下10度を下回る。

 「三年ぶりに空き家に明かりがともって心強い」。長谷川さん宅から南約200m離れた農業山口元治さん(63)は、一家を迎え入れた地元の声を代弁してこう話す。隣の独り暮らしの朝山万太郎さん(87)は夕方、ぶらっと庭先まで来て、ユリネなど野菜を置いていってくれる。

 自宅にあるのはラジオだけで、テレビは置いていない。家族共通の趣味が読書。毎晩30分間、志織さんに本を読んであげるのが、一成さんの日課となっている。

 近所づきあいは13戸。頼まれて消防団員にもなった。越してきて一年半、二つの葬式を手伝った。一成さんは「流されるままだった東京と違い、ここでは、地に足がついた暮らしを実感している」と話す。

(長谷川 秋水)