朝日新聞:笑顔絶えない家 山里でパン作り
2008年5月30日(金)【メディア掲載】
2008年5月30日付の朝日新聞「ひだまり」欄に【笑顔絶えない家 山里でパン作り】の見出しでル・サンクのことが紹介されました。
山道を車で走りながら不安になった。本当にこんな所にパン屋があるんだろうか。人家から離れた小高い場所に、「ル・サンク」は突然現れた。
庄原市総領町五箇。店を経営する長谷川一成さん(57)、孝子さん(54)=写真= 一家が、この地に引っ越してきて、ちょうど10年になる。旧国鉄を辞め、東京のパン屋で8年修業。その後地元に戻り、築100年以上の空き家を改築し、パンエ房と店を構えた。
自家製の天然酵母を使い、石窯で焼き上げる。外側のばりっとした、ハード系のパンが人気だ。1日に作るパンは約80個。「自分が責任を持って作れる数」を守り、手を広げるつもりはない。
「ベストセラーのパンでなくていい」と言い切る。「万人に受けるものは逆に個性がなくてつまらない。うちのパンじゃないとダメというファンを多く作りたい」
提携する店に卸すほか、全国に30人ほど定期的に取り寄せてくれる客がいる。店には、遠く広島や福山から訪れる人も多い。「こんな田舎まで買いに来て、おいしいと言ってくれる。それがうれしいし、やりがいになる」
腰まで埋まる積雪、零下10度にもなる真冬の生活、娘の教育など、これまで仕事以外の苦労も多かった。「田舎暮らしにあこがれていたし、楽しいですよ」と孝子さん。「でも、人には勧めないけど」と一成さん。底抜けの笑顔でそう言う。
「パンを通して友だちを増やしていきたい」。それがル・サンクのパンの味を醸し出す。売りはハードなパンだが、そこにただよう空気は、柔らかく心地よい。
(長尾大生)